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報酬、忌避応答や性行動中の線条体におけるキナーゼ活性のリアルタイム観察 (~2015)

Goto A, Nakahara I, Yamaguchi T, Kamioka Y, Sumiyama K, Matsuda M, Nakanishi S, and Funabiki K.
Circuit-dependent striatal PKA and ERK signalings underlie behavioral shift in Male Mating Reaction. 
Proc Natl Acad Sci U S A. 112 (21):6718-23, 2015.

 背側線条体は大脳基底核回路を構成し、報酬や忌避行動の選択や開始に重要な脳領域です。背側線条体を構成する細胞は、ドーパミンからの入力を受けるMedium spiny neuron (MSN)が知られています。MSNはドーパミンD1受容体を発現して大脳基底核回路の直接路を構成するdMSN (direct MSN)と、ドーパミンD2受容体を発現して間接路を構成するiMSN (indirect MSN)に大別されます。ドーパミン受容体はPKA活性を制御するため、行動選択時のドーパミン変動によってMSNのPKA活性がダイナミックに制御されていると予想されますが、実際に計測されていませんでした。そこで自由運動マウスの線条体のdMSNとiMSNでPKAの活性とその下流のERKをリアルタイムで観察するための技術を確立しました。

 まずdMSN、iMSN特異的にFRETバイオセンサーを発現する遺伝子改変マウスを作成しました。そのために、Cre依存的にPKAまたはERKのFRETバイオセンサーを発現する遺伝子改変マウスを作成し、dMSN、iMSN特異的にCreを発現するマウス(D1-Cre,D2-Cre)と掛け合わせました(図5B)。

 図5. Aファイバー内視顕微鏡の写真と模式図。B. 線条体の直接路、間接路特異的にFRETバイオセンサーを発現する遺伝子改変マウス。C. in vivo FRETによる自由運動マウスの直接路、間接路のPKA活性リアルタイム計測。電気刺激のPKA活性は直接路と間接路で逆の応答を示し、コカインとオス性行動時はさらにその逆の応答を示す。

自由運動マウスのMSNのPKAとERKの分子活性をリアルタイムで観測するため、大阪バイオサイエンス研究所、中西重忠研究室との共同研究によりファイバー内視顕微鏡を導入しました。この顕微鏡では、直径2ミクロンの光ファイバー数千本が束ねられたファイバーバンドルの一端を脳の各部位に挿入し、もう一端を共焦点顕微鏡でスキャンすることで自由運動下のin vivo FRETイメージングを可能としました(図5A)。

図5. Aファイバー内視顕微鏡の写真と模式図。B. 線条体の直接路、間接路特異的にFRETバイオセンサーを発現する遺伝子改変マウス。C. in vivo FRETによる自由運動マウスの直接路、間接路のPKA活性リアルタイム計測。電気刺激のPKA活性は直接路と間接路で逆の応答を示し、コカインとオス性行動時はさらにその逆の応答を示す。

 

報酬行動中におけるPKAとERKの活性を検証するために、コカイン投与後におけるPKAとERKの活性をリアルタイムで観察しました。コカイン投与で直接路のPKAとERK活性は上昇しましたが、対照的に間接経路のPKAとERK活性は低下しました(図5C)。

忌避行動中におけるPKAとERKの活性を検証するために、電気刺激後におけるPKAとERKの活性をリアルタイムに観察しました。電気刺激により直接路のPKAとERK活性は低下しましたが、対照的に間接経路のPKAとERK活性は上昇しました(図5C)。これはコカイン投与による応答と逆のパターンであり、鏡像の関係でした。

次に、性行動におけるPKAとERKの活性をリアルタイムに観察しました。オスはメスに受け入れられた時はコカイン投与時と同様の活性を示しました(図5C)が、メスから拒絶された時は電気刺激と同様の活性を示しました。面白いことに、その時のメスとのやり取りによって、活性が変化しました。つまりその時の状況に応じて直接路と間接路の活性が行動の報酬性と忌避性に応じて逆方向にかつダイナミックにPKAとERKが制御されていることを初めて明らかになりました。 

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