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FRETイメージングによる腸管神経前駆細胞の移動の分子メカニズムの解明(~2013)

Goto A, Sumiyama K, Kamioka Y, Nakasyo E, Ito K, Iwasaki M, Enomoto H, Matsuda M.
GDNF and Endothelin 3 regulate migration of enteric neural crest-derived cells via protein kinase A and Rac1. J Neurosci. 33 (11): 4901-4912, 2013.

腸管の運動・分泌・血流は腸管神経系(ウエルバッハ神経叢とマイスナー神経叢)によって制御されています。この腸管神経系は発生期において、前駆細胞が腸管壁上を移動し、腸管を網目状に覆い、分化することで形成されます。この移動過程に障害が起こると、ヒトでは大腸の末端で神経系が形成されないヒルシュスプルング病が生じます。そこで、この移動過程に必要な分子メカニズムを明らかにすることを目指しました。

腸管壁上を移動する腸管神経前駆細胞の分子活性を計測するためには、FRETバイオセンサーを発現するマウスが必要でした。当時、松田研ではPKAとERKを発現する遺伝子改変マウスが既に開発されていました (Kamioka et al.,2013CSF)。これに加え、細胞骨格の分子機構をさらに検討するため、Rac1, Cdc42と JNKのFRETバイオセンサーを発現した遺伝子改変マウスを新たに作成しました。これらの遺伝子改変マウスの発生期の腸管を器官培養し、二光子顕微鏡で腸管神経前駆細胞のFRETイメージングを行いました(図4上)。

腸管神経前駆細胞が腸管上を移動する最前面には鎖状になって移動する集団があり、その後ろでは網目状になってより遅く移動する集団があることを見出しました。鎖状に動く細胞は網目状に動く細胞に比べてより高いRac1とCdc42を示し、逆にPKAはより低い活性を示しました(図4下)。また薬物を用いた実験から、Rac1とCdc42の上流のPI3-Kを阻害すると細胞移動が抑制されること、PKA活性を上げると細胞移動が抑制されことを明らかにしました。つまりRac1,Cdc42が細胞移動に重要であり、PKAの活性がそれを負に制御しているというモデルが示唆されました。


 


図4. (上)FRETバイオセンサーを発現した遺伝子改変マウスの胎生期の腸管を器官培養し、2光子顕微鏡でライブイメージング。(下)腸管神経前駆細胞におけるRac1, Cdc42, PKA, JNK, ERKそれぞれのFRET画像。PKA-NCはリン酸化基質を欠損したネガティブコントロール。先端を鎖状に移動する細胞で低いPKA活性と高いRac1とCdc42活性を示すことから、PKAがRac1とCdc42を抑制する経路が示唆される。

一方、ERKとJNKはランダムな活性が見られ、移動速度との相関は見られませんでしたが、阻害薬を用いた実験から、JNKは細胞移動に必要であることを明らかにしました。


 

前駆細胞の移動には間葉系の細胞から分泌されるGDNFとEndothelin 3が重要であることが知られています。そこでGDNFを前駆細胞に投与したところ、PKA活性が低下し、逆にRac1は活性化されました。Endothelin3を投与したところ、GDNFとは対照的に、PKAが活性化しRac1が低下しました。つまり、間葉系の細胞から分泌されるGDNFとEndothelin 3がPKAを介して腸管神経前駆細胞の移動を正と負に制御するというシグナル経路が示唆されました。

今回の発見は、ヒルシュスプルング病の発症メカニズム解明にも大きく貢献すると期待できます。

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